ランチで再び

2022.06.21

A Trout Hunter[5]

 

 

 by レネ・ハロップ

 

 

ハリマン・ランチのオープニング、6月15日はフライフィッシャーにとって特別な日。長年ここを釣ってきた私にとっても、それは変わらない。他のローカルな釣り場はだいたい通年開いていることが多いのだが、世界でもっとも難しい釣り場の1つ、ヘンリーズフォークのフライオンリー・セクションは、1年のうち半分ちかくがクローズとされ、動物が守られている。ここで自分のスキルを試したいと考えるなら、タイミングを計らなければならないのだ。

 

アイダホ州に土地を寄付する条件としてハリマン家が提示したこのクローズ期間は、絶滅が危惧されるナキハクチョウを初めとする鳥類の繁殖地として、ランチがいかに重要かを彼らが認識していたからだ。アイダホ州で最初の州立公園となったハリマンランチは、幼い鳥がすでに巣立った6月15日をオープニング日と定められた。深い森が迫り、彼方に峻険な岩山がそびえるこのメドウ地帯は、別の領域において魔力を感じる人々の聖地ともなってきた。かつては歴史豊かな私有地だったこの場所に一般市民が立ち入れるようになってからおよそ50年、ランチのオープニング日は、世界から人が集まり話が盛り上がる、社交イベントとなった。

 

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およそ8マイルにわたって、おだやかで徒渉可能な流れが続くランチの釣り場は、最大で100人ほどの人が、なごやかな釣りを楽しむことができる。活き活きとしたスピリット溢れるこの土地を愛するという共通点によって、見知らぬ人たちが親しい友となる。オープニングで年に1回顔を合わせ、各地へ戻ってゆく人も多い。

 

オープニング前の一週間、ラストチャンスの小さな集落は、さまざまなナンバープレートを付けたクルマが集結しはじめる。英語を話さない人たちも多く、このイベントの重要性が世界的に知られていることが分かる。ビング・レンプキ・アクセスの駐車場が一杯になると、ごく特別な場合にしか見られないエネルギーが充満してくる。この駐車場は、川で今なにが起こっているかというストーリー集結の場、かつ過去のできごとを振りかえるところでもある。グラバルピットの夜は、焼けるステーキ、香しい葉巻、濡れたリトリーバー犬の匂いが入り交じる、いかにもオープニング日らしいもの。キャンパーたちが作り上げるこの小さなコミュニティにおいて、火は夜遅くまで燃え続ける。煙と脈動するような炎のむこうに、昔はすこし違った顔をしていた友達がいる。ここにいない者たちのことも思い出す。毎日が今よりもゆっくりと過ぎていき、圧力も小さかった時代を生きた人たちだ。

 

そんな祝祭の日々は、6月15日をはさんで1週間ほど続く。私は、ランチの北入口に設けられた古い木製のゲートを通り、踏みしめられた小道を行く。150ヤードほど進み、水路を1本渡ったところで、私は75年の人生においてつねに変わらないパワーを伝えてくる光景を目にする。トレイルの上には、まだ朝早いのに先行者が見え、すでに立ち込んでいる人たちも、はるか彼方まで散らばっている。

 

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昼を挟んで午後になると、虫の活動はだいたい収束してしまい、夕方を待つだけ。朝と同じ突然さで、川からは人がはけていく。駐車場で、昔からの友人とビールを飲みながら交わす釣り話のネタとして、レインボーがまだ何尾かはライズしているだろうが。

 

ランチのオープニングは、昔からの儀式として私が大事に思っている行事の1つである。これを境に、ヘンリーズフォークの夏がやってくるのだ。

 

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ドリフターへの挑戦

2022.06.01

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告白。以前の私は、 釣れるフライパターンこそが最高、いいフライなんだと思っていた。だから有名パターンに憧れ、レシピ通りのタイイングに熱中した。釣れりゃあいいのだ……そうなんだけど、フライって私にとって何なのだろうとある時考えた。いくらか見え始めた水生昆虫の実像が頭に入りつつある頃のことだ。ドリフター対マイフライでは、マッチレベルがとんでもなく低いことに気づいた。ショックだった。そうなるともう、自分で納得のいかないデザインや仕上がりのフライは使う気がしない。気持ち沸き立つライズ現場は、これなら「マッチできる」と確信を持てるフライで釣りたい。

 

 

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ドリフターの現実、オオクママダラカゲロウのダン

 

ライズを目撃、ヨシ行くぞという時に、こんなドリフターを見たらどうだろう。あなたのフライボックスに、マッチしそうなフライがあるだろうか。最初は、私もガックリ絶望したが、やがて気がついた。ライズを釣る最高のヒントを手に入れられたのに、フライがないと嘆いている場合じゃない。この本物に近づけるようなフライをタイイングすればいいだけのこと。なにせ、本物を知っているのだからすばらしく有利じゃないか・・・ワクワクしてきた。

 

そうなんだ、私にとってはライズする魚が口にするドリフターこそが先生であり、フライパターンの行き着く究極のデザインがそこにある。ドリフターを観察する価値は、とんでもなく大きいと気づいた。すると、何とかしなくてはならないのは、ダンやアダルト、スピナーのウイングに使う素材だった。市販品ではぜんぜん納得できないから色々と探してみたけれど、ペラペラ感があり硬質なプラスティックシートなどは嫌だなと感じた。

 

メイフライであれカディスであれ、変態直後のダン/スピナー/アダルトは「ヴェイン」と呼ばれる管を経由して体液を注ぎ込んで羽を伸ばし、時間とともに硬化する。羽は、枝状に伸びたヴェインが支えている。

 

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ヴェインは、このような枝状に広がっている

 

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私のオリジナル、ヴェインファイバーを透過光で見るとこんな感じ

 

 

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カーブを持ったカットをすると、ぐっとウイングらしくなる

 

ヤマメは、流れの下から空をバックに透過光でフライを見る。透過光で見えるウイングにはヴェインの表現が欲しい。フライの機能パーツとしては、柔らかさがあり、水面膜に囚われたトラップト個体を表現する場合には、ボディを支える張りも必要。また、納得出来る色合いも欠かせない……そんなマテリアルが欲しいと思って探した。

 

まず試してみたのは、やっぱりシルク。絹糸は、昆虫が生み出したものだ。けれども、フライのボディを水面で支えるような張りが足りないし、ファイバーが繊細すぎて扱いにくい。結局、長期間をかけてマテリアルを探し回り、タイイングを繰り返して今のヴェインファイバーにたどり着いた。

 

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ダンへの使用例

 

 

ウイングは、ヴェインファイバーの「シナモン」と「ダークダン」をミックスし、アブドメンには「ライトケイヒル」を巻いて、オリーブブラウンの水性顔料マーカーで染めてある。ライトケイヒルは、褐色と淡色のミックスしたファイバーなので、アブドメンとして使いやすく、マーカーで染めれば様々なライズシーンでマッチ出来るようなマーカーアレンジが容易。これは、現場でマーカー染めをやるのがお勧め。まず淡色のボディにタイイングしておけば、マーカーで必要な濃色に染めるのは簡単。

 

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スペントドリフターの例

 

 

エラブタマダラのスピナーだが、そのウイングは透明でほとんど見えないと感じるほど。けれども、この透明なウイングは張りもあってスペントのボディをしっかり浮かせられる。



 

 

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エラブタのスペント対応フライ

 

 

フライにタイイングしてみる。アブドメンをヴェインファイバーの「ライトケイヒル」で巻いてから、水性顔料マーカーでライトブラウン系に染めてある。ソラックスはヘアーズイアをダビングしたが、これも同じマーカーで染めてある。ウイングは、ヴェインファイバーの「キナリ」。このぐらいに出来れば、自己満足ながらキャストする元気が湧いてくる。

 

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ゲゲっと驚くドリフターの現実!

 

 

ストーンフライをイメージしたフライパターンは東西にたくさんある。けれども、ライズ現場で本物のドリフターを見ればやっぱりショックを受ける。「まるで違う」のだ。初夏からの季節、山地渓流の午前中にはミドリカワゲラなどがさかんにハッチしており、ポロポロと流れに落ちている。このドリフターには、シャック、縮れたウイングなど、魚にとって捕食しやすい要素が揃っている。

 

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ミドリカワゲラノックダウン

 

フック・・・TMC206BL #16

スレッド・・・BENECCHI’S UF ペールイエロー

アブドメン・・・ヴェインファイバー ライトケイヒル

シャック相当部分は、茶色の水性顔料マーカー「茶」で着色

ソラックス・・・ヘアズイア

ウイング・・・ヴェインファイバー キナリ

フライボディ全体は、イエローの水性顔料マーカーで着色

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この記事で使ったヴェインファイバー

 

 

キナリ、シナモン、ライトケイヒル、ダークダンだ。他にも多数のカラーバリエーションを揃えてある。万能マテリアルであるなどと主張する気はないが、この素材を使ったフライをボックスに入れておくと、悩ましいライズ状況に直面した場合の心強い味方が増えることは保証させていただく。まだ使ったことがない皆様も、ぜひ一度。

 

刈田敏三

TYING TIP May 20

2022.05.20

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丁寧に、なんども繰り返すこと

 

今年91歳になるメアリー・デッティには、会って話を聞いたことがあります。ニューヨーク州ロスコーは、ビーバーキルの流れのほとりにある小さな街で、うっかりするとすぐに見落としてしまうくらいの集落ですが、その中に控えめな看板を掲げた、お店ともなんとも分かりづらいクリーム色の外壁をした小ぎれいなお店の中にメアリーおばあさんは座っていて、フライの整理と伝票の処理をやっていました。目の前にはダイナキングのバイスと、各種の基本ツール類が、いつでも仕事を開始できるように置いてあります。東のデッティ家、西のハロップ家は米国フライタイイングの世界に残った2つのファミリー。1928年にウォルトとウィニーの夫妻がキャッツキル地方で開いたタイイングのビジネスは、娘メアリーに引き継がれ、メアリーの孫のジョー・フォックスが継ぎ、いまも地元タイヤーが巻いたフライを販売すると同時に、しっかりとした釣具店としても存続しています。

 

デッティ家が世に送ったオリジナル・パターンは数多くありますが、私が好きなのはウォルトが巻いたデラウエア・アダムズ。パラシュートではなくスタンダード・ハックル。高く浮くキャッツキル・ドライの基本シェイプを持ちつつ、英国流のボディーハックルのおかげでよく見えて、初夏の川にぴったりのカラーですから、東北に向かおうという私も1ダースほどこしらえようとしている段階。グリーンのボディが新緑の光の中でよく目立ち、魚も気に入ってくれます。

 

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本年3本目のデラウェア・アダムズ(改)ですから、まだ突っ込みどころ満載ですが…

 

彼らがタイイングを生業にしていた時代、マル秘テクニックは決して口外しないものだったようです。それは、アメリカン・フライフィッシングの父祖と考えられるセオドア・ゴードンからしてそうで、誰かを手取り足取り教えてしまうと、自分の食いぶちを減らしてしまうことに直結してしまう。ルーベン・クロスはそんな「伝統」に逆らって、”Tying American Trout Lures” 『アメリカのマス用ルアーを巻く』(かつてはフライもルアーの一種と分類されていました)と” Fur, Feathers and Steel” 『毛、羽根と鋼』(いいタイトルですね!!)を出版し、後続のキャッツキル・タイヤーたちを育てたことになりますが、彼とて、知っていることすべてを文字や写真で表現したとは思えません。クロスの後続世代になるウォルト&ウィニー・デッティとハリー・ダービーたちは、結局は先輩が巻いたフライを買って、解いて理解するしかありませんでした。本に書いてあることと、実際にやっていることが違っていたケースもあったそうです。

 

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キャッツキル派テクニックの源流がここに初公開されたわけで… (1930年頃)

 

結局は、そうなんです。自分でやってみるしかない。どれだけ本で読んでも、ビデオを見ても、あるいはデモンストレーションをしてもらっても、ここぞというフライは自分で巻くのがもっとも確実な方法。現代社会に残った掃き残しの一角、チマチマしたことの多い釣りの世界においてもさらに特殊な領域がフライフィッシングです。私も、フライというエサを自分で作り上げることに慣れてしまったので、ごくたまに生餌やルアー、餌木(イカ用)をお店で買うには「えっと、準備はこれでいいんだっけな…」という罪悪感にも似た気持ちが伴います。

 

シーズン前、久しぶりに渓流用のドライフライを1本巻くと、いやになるくらいぎこちない。テールとしてむしりとる毛の本数やダビングの量、ハックルの巻き量などがぜんぜん理想と違う、ということを体が理解していない。3本くらいで、やっと感じがわかってきて、6本巻くころにはだいたい各所に油が回り、バランス感や指使いも戻ってきます。ロスコーのお店でメアリー・デッティと会ったときに「コマーシャルタイヤーとしての秘訣はなんですか? うまくなるにはどうすればいいです?」と聞くと、「同じものを、まとめてたくさん巻きなさいな」と言われました。僕は、彼女らのように1日100本もタイイングすることはできませんが、生産スケジュールは6本ずつにしています。そしてやっぱり、最後の1本の仕上がりがいちばん良い。マテリアルの選定、指使い、スレッドワーク、テンション操作などを組み合わせて良いエサができたときの充足感は、お金を稼ぐニーズとまったく関係がないところに集中を注いでいるというささやかな背徳感も含め、言葉に表現できないものがあります。

 

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ペンシルバニアの主、ジョージ・ハーヴェイがタイイングをアドバイス

 

この文章をお読みの方には、フライフィッシングを初めたばかりという方もいらっしゃると思いますが、次ステップとしてフライタイイングは強くお勧めします。向き・不向きは確実にありますし、これができないとフライフィッシングが楽しめない、ということは全くないですが、釣り人生を楽しむための取り組み課題として、タイイングほどポテンシャルの高い行為はあまりありません。また、釣り人としても才能豊かな人が、経験の重みのうえに作り上げたタイイングツールを使いこなす楽しみもあります。もし、タイイングに取り組んでみたものの、どうも好きになれないという人がいらっしゃるなら、ツールを入れ替えてみるのも手です。高い包丁を買っただけで、料理の腕が上がったように思う私のことで、他の方はどうかわかりませんが、ハサミ1つ、ボビンホルダー1つを取っても、よくできたものとそうでないものは、まったく気持ちの入り方が違ってくるものです。

 

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 では、Tight Loops!

 

東 知憲

CASTING TIP May 10

2022.05.10

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目を逸らしてターゲットを定める

 

海の浅場、フラットを泳ぐ魚を狙ってキャストする釣りは、フライフィッシングの中でも一種特殊な「種目」だと思います。ライズの釣りと違ってリピートはほとんどないからワンチャンス、かつ釣り人に与えられた時間枠も短い(ないしごく短い)ことがほとんど。そのことを知っているからこそ、手が震える、膝が笑う。

 

オートバイのコーナリングでよく使われる表現に「バイクは視線をやった先に向かう」というものがありますが、フライフィッシングでも似たことがいえます。つまり「フライは視線の先に飛ぶ」。つまり、ある程度フライキャスティングの技術が身についているなら、魚の頭に落とすことは難しくない。しかし、です。フライを落とす場所は必ずしも頭の真上が良いとは限りません。魚種と状況によって、フライを置く位置は大きく変わってくるのです。

 

ベタ凪のなか、30センチくらいの水深でクルージングとテイリングを繰り返すボーンフィッシュは、頭の上にフライを落とすと、どれだけそっと置いてもジェット速度で逃げていくことでしょう。進行方向(ボーンフィッシュは比較的安定した直線軌道を取ることが多いです)の2メートルほど先にフライをあらかじめ起き、近寄ってきたところでちょんと動かす、というのが効果的。スレた黒鯛なども、上から落ちてくるものに対してはきわめて用心深いものですからアプローチとしては同じ。フラットで釣れる魚として最大級、フロリダキーズのターポンは、泳いでくる魚の「ボート1艘ぶん」前に落としておくことも普通です。

 

たとえばこんな魚の姿が、波間に見えたとします。左側が頭、ゆっくり遊泳中。フライを進行方向に置かなければいけませんが、見逃してはいけないと魚から目をそらさずにフォルスキャストしてシュートすると、だいたいは魚の目のまえにフライが落ちます。何十年も生きて百戦錬磨の巨大魚は、上から落ちてくるもの=危険物という共通認識があるので、着水を見られたフライは、ほぼ無視されてしまいます……

 

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ではアングラーは何をするべきか? 魚から、いったん目をそらさなければなりません。魚種の傾向、出会った魚の気分、外的要因などを考え、どこにフライを落とすべきか瞬時に判断し、そこにターゲットのリングを設定します。そのリングを見つめたまま、できるだけクイックにフォルスキャストをして、シュートしてやるのです。

 

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本来この赤いリングはもっと左側に欲しいところなんですが、写真から外れてしまいますので、いまは魚体 1.5 本ぶんのところに便宜上置きました。このように、泳いできたターポンの場合はまずターゲットを投げ越し、着水と同時にリトリーブして距離を合わせ、魚の到着を待つことが多いものです。ただし、眠っているように表層に浮かぶターポンの場合(朝に多い)は、まさに頭の上を叩くようなプレゼンテーションが必要。このターゲット設定は、ガイドさんがいるならガイドさんに聞くのがいちばん早道です。リーダーやティペットの存在にきわめて敏感な魚種もいますので、そんな場合は決して投げ越さず、魚の動線よりもショート気味のキャストで勝負することになるのです。

 

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変わり続けるシチュエーションに合わせる柔軟性を持って、楽しく釣りをしてください! では、Tight Loops!

 

東 知憲

進化と変化

2022.04.18

埃まみれの、古いキャンバス製タックルバッグ。中身は40年以上まえに仕舞ったまま。車庫の隅に据えた棚の上にある目立たないそのバッグは、80年代から溜まってきた不要品の断捨離として、捨てられる運命だったかもしれない。

緑青が浮いた真鍮の金具に通る、硬くひび割れた皮のベルトを外し、バッグを開けさせたのは好奇心だったが、中に入っていたのは長く忘れられた宝物だった。完全に使用可能な状態に保たれた、何百本ものフライを巻いたのは他ならぬ私。ウエット、ドライ、ニンフと分けられ、昔風のデザインのフライボックス1ダースほどに収められている。私は「フライを持ちすぎることなどない」と考えるタイプの人間だが、これらの古いフライが使われることなく仕舞ってあることには理由があった。ガレージ片付けという大プロジェクトのことなど忘れてしまった私は、2時間をかけて、自らの過去に深く潜っていった。

 

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フライタイイングが、自分ではない人たちのデザインとコンセプトに基づいた作業だった時代だ。見つかったすべてのフライにノスタルジックな気持ちは湧き起こったが、もっとも興味を引いたのは、特定の種を模そうとしたドライフライ。もっぱらメイフライパターンだ。米国ではセオドア・ゴードンがマッチング・ザ・ハッチというアイディアに基づいて活動を開始した19世紀後半に遡る、クラシックなフライデザインに、私は大きく傾斜していた。ヨーロッパにおけるドライフライの歴史はもっと長いが、そこから刺激を得た米国のクイルゴードンは、ボニーと私がプロになった時代でも、ドライフライのモデルとして大きな影響力を持っていた。

 

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私たちがタイヤーとして頭角を現すためには、東海岸で活躍していたダービー夫妻、デッティ夫妻、ロイ・スティーンロッドといった初期の達人たちのテクニックをマスターしなければならなかった。プロとして最初の10年間のオーダーも、大半は東海岸パターンだった。クイルゴードンに加え、ライトケイヒル、ジンジャークイル、ヘンドリクソンなどを巻いたが、いずれも基本構造は同じである。パーツはそれぞれ異なるが、テイル、ボディ、アップライトウイング、硬いファイバーのハックルといったイメージは一貫している。メイフライのダンを模するこの手法は広く受け入れられ、もともとはカディスイミテーションとして考案されたアダムズですら同じデザインが適用された。アメリカのフライフィッシャーに愛されたこのトラディショナルなフライデザインが唯一の選択肢でなくなってきたのは、70年代になってからのことだ。

 

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ダグ・スイッシャーとカール・リチャーズが記念碑的な著作「セレクティブトラウト」を出版したのは1971年。以来、メイフライ・イミテーションの形は大きく変化することになる。「セレクティブトラウト」は、フライフィッシングの世界において広く知られ、重要であると認識されていた昆虫に焦点を当てた。昆虫に関する科学をアメリカのフライフィッシングに持ち込んだスイッシャー&リチャーズは、フライフィッシャーおよびタイヤーの背景知識に変化をもたらし、伝統的なトラウトフライのデザインから大きく離脱したフライを生み出し、一般化したのだ。自らを確立しようとしていた若いフライタイヤーとスイッシャー&リチャーズが巡り会ったのは、神の導きのようだった。この革命家たちにはじめて遭遇したのは「セレクティブトラウト」が刊行される前の年で、場所はヘンリーズフォークのほとり。以後10年ほど、私たちはよくいっしょに釣りをしたものだ。現代フライタイイングの世界に、彼らほど大きな影響を及ぼした人はいない、と私たちは信じている。

 

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品質に関する基準に変わりはないが、今日のフライタイイングは厳格なデザインや構造に関する決まりに縛られることはなく、自由な創造性を使うことができる。プロとして活動してきたこの50年以上にわたって、私たちは、確固とした知識に基づいてデザインの個性を打ち出してきたタイヤーたちに尊敬の念を持っている。彼らの多くは私たちよりも年上であるが、若き腕利きもたしかにいる。そして、確固とした地盤を築いてくれたかつての達人たちと現代のタイヤーたちは、時を超えてつながっているのだ。

 

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自分がむかし巻いたフライを前に、私は達人たちと、彼らが私に与えた影響のことを考えた。古いキャンバスバッグの中にあったのは、自分の釣りで使うことがあまりなくなっていたフライではあるが、私がどこからやってきた誰であるのかを教えてくれる。私は、時代遅れになってしまった感があるこれらのフライを、またヘンリーズフォークで使ってみようと思い始めている。おそらく、驚くような結果が待っているだろう。

刈田敏三のライズシアター(卯月)

2022.03.31

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ホンモノから学ぶ 

 

 

埼玉県荒川は、3月の解禁からずっと水が少なくて、ライズもなかった。4回通ったのにシロハラのダンさえ一度も見ていない。24日、ナミヒラタのハッチをやっと体験。ライズに向かい、フライを選ぶ瞬間はいつもドキドキする。急ぎながらもあれこれ迷い、タイイングへの後悔も発生するような複雑な時間。それがたまらなく、いい感じ。フライを結ぶだけでワクワクなんだが、マグレチックに釣れても、あまりうれしくない。狙い通りに釣るため、ライズ現場で「これなら」と自信を持てるようなフライが欲しいのだが・・・それは、いつか釣れたことのあるフライ? 有名パターン? 誰かが釣ったらしいと聞いたフライ? でもせっかくフライフィッシングをやるなら、まずホンモノを探してみる・・・昆虫採集だな。

 

目の細かいランディングネットを使って、流れの水面にドリフターを探す。1分でもやってみれば、何かが見つかったりする。ダンなどを見つけたとしても、最初は種類を同定することにこだわらず、まずサイズをみる。それから、表や裏というか背面やまたひっくり返してその腹面を観察。その色合いや濃度が違っているのに気づいたりする。つまり、同種のダンであっても腹面浮きと背面浮きとでヤマメから見たダンの色調は違い、成長の個体差によりサイズさえ一定ではないことに気づく。ライズ現場で発見したドリフターこそがマッチフライを教えてくれるのである。

 

ライズ対策で私が重要だと思うのは、フライを単一に大量生産しないこと。体色の濃いのや淡いの、サイズが小さめのタイプなどのバリエーションを作りたい。そしてこれが肝心……ライザーを釣ることができたら、ヒットフライこそが究極的宝物。二度と使わずに釣行データとともに保存して欲しい。今回は、ドリフターと実際に釣って保存してある、刈田のヒットフライコレクションからいくつか紹介しよう。ちょっと長くなってしまうが、私もシーズンインでハイなのだ。

 

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ライズ現場では、誰に聞くよりまず自分の足元を見る。そこに、ヒントがある。

 

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ネットでキャッチしたばかりのオオマダラカゲロウ ダン。このアブドメン斑紋の色合いや濃度は個体によって様々。だから、絶対的にマッチするワンパターンのヒットフライなどはあり得ない。

 

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オオマダラカゲロウ ダンの背面。斑紋は腹面よりも濃い傾向、これも全てのダンが同じにはならない。

 

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5月23日オオマダラカゲロウ ハッチ現場でのヒットフライ!

 

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スレッド・・・ダンビル70 ベイジュ

アブドメン・・・ターキーバイオット ダークタン

ソラックス・・・ヘアーズイア

ウイング・・・ヴェインファイバー ミディアムダン シナモン

 

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釣れたフライは、このようにラベルをつけて保存。釣った時の状況はパソコンのデータベースに記録する。

 

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ハッチできなかったシロハラコカゲロウ。難易度の高いライザーを釣るヒントとしては、フライパターンにハッチ失敗のイメージを加えることで良い結果が出ることが多い。わかりやすい例としては、ボディに絡みついたシャック、成長不全で短いウイング、囚われて沈みかかっている体など。

 

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4月27日シロハラコカゲロウ ハッチ現場でのヒットフライ。ダンのアブドメンにシャックをつけてある。

 

シロハラコカゲロウ  キャプティブダン #16

スレッド・・・ダンビル70 ベイジュ

シャック・・・ヴェインファイバー ダークシャック

シャック2・・・ヘアーズイア

アブドメン・・・ターキーバイオット ヘンドリクソン

ソラックス・・・ヘアーズイア

ウイング・・・ヴェインファイバー  ダークダン

インジケーター・・・ヴェインファイバー パーシモン

 

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シロハラコカゲロウ スペントのドリフター。シロハラは、午前中から昼にかけて平瀬の川底へ潜って石の裏に産卵を行う。産卵後のスペントは、昼ごろから午後にかけて水中から水面直下のドリフターとなる。パラシュートタイプのフライが有効、ボディが水面直下かさらに深めに位置するようにフライデザインする。

 

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5月28日のヒットフライは、シロハラの水中産卵後のスペントドリフターにマッチするもの。このタイプは、日中であっても水面下の「サブライザー」を釣ることができる、高信頼のスペシャルフライ。

 

シロハラコカゲロウ スペント#16

 スレッド・・・ベネッキ ウルトラファイン オリーブグレイ

アブドメン・・・ターキーバイオット ラスティスピナー

ソラックス・・・ヘアーズイア

ハックル・・・ホワイティング ドライフライハックル

ポスト・・・ヴェインファイバー パーシモン

 

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7月7日のヒットフライは、ちょっと裏ワザ系。流心ボトムハッチのヒラタカゲロウ系では、ハッチがあるとしても種を察知するのは限りなく難しい。このフライは、その難題を解決するために考えた。特徴は、ボディを半分以上ニンフに隠して、種としての特徴を見えなくしてあること。ニンフの部分だったら種類を問わずに濃色でいけるのだ。少し見えているダンのソラックスは淡色。ハッチの一瞬だけは、どの種であってもダンの体は淡色なので、共通のフレッシュさを表現できる。この濃淡の対比で、シャックから抜けだそうとして力尽きたスティルボーンだとの錯覚を期待している。わかりやすくいうと、ハッチしている種類を誤魔化して釣るのが目的のフライデザイン。サイズを変えてタイイングしておけば、あれこれのヒラタハッチに対応できる。

 

ヒラタスティルボーン #14

スレッド・・・ベネッキ ウルトラファイン オリーブグレイ

ニンフボディ・・・ターキーバイオット トライコ

背面シャック・・・ヴェインファイバー ダークシャック

ボディシャック・・・ヘアーズイア

ソラックス・・・ヘアーズイア(淡色)

ウイング・・・ヴェインファイバー ミディアムダン

 

 

水生昆虫研究家・フライクリエイター 刈田敏三

 

 

FISHING TIP Mar 16

2022.03.16

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ドラッグ設定の目安

 

春っぽくなってくると、海にも目が行く今日この頃……。

 

海と言えば魚との引っ張り合い、パワー勝負のフライフィッシングというイメージ。しかし、海のフライフィッシングでもっとも活用できる実際スキルの1つが、最低ドラッグ設定を体に覚えさせることなんです。海の対象魚およそ9割くらいにそのまま変更なしで適用できるドラッグ設定を、レフティー・クレーが簡単に教えてくれています。

 

まずリールから、フライラインを少し出します。最先端ではなくベリーあたりを数十センチ、Tシャツの裾とかタオルでぬぐい、魚汁やラインドレッシングなどを取り除きます。つぎにぬぐった部分を固く閉じた唇で横に咥え、そのまま首を横にゆっくりと振ってリールからラインを引き出してみます。リールのドラッグはまず、ずるずるに緩めておいて、ほんの少しずつ締めていきます。締めすぎてしまうと、ラインは唇で止められずに中を滑ります。そして、成人男性の閉じた唇だけ(歯は立てません)でぎりぎりリールからラインを引き出せるテンションが、およそ1ポンド(400g) というのです。「ボーンフィッシュでもなんでも、だいたいこれで大丈夫だよ。必要があればリールのスプールをパーミングしたり、ラインをグリップに握りこんだりすればいいのさ」と言っています。

 

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私は何人かの友達にこの実験をやってもらいましたが、唇でラインを引き出せる限界が、だいたい350g – 420g という感じでした。つまりレフティーは合ってます。そしてこれくらいのテンションは、魚がわりと高速で走ってもオーバーランやバックラッシュを起こさない、最低限かつ万能のドラッグ設定ということができます。この引っ張り感、ぜひ手にも教えこんでおきましょう。

 

長いフライロッドは、たくさんのガイド(大部分はハリガネ製のスネーク)がついていますから、それにテンションがかかるようにロッドを大きく立てると、リール部分でのラインテンションは大きく変わります。ロッドを直線にしたら400g、ロッドを垂直に立てたらその3倍の1.2kg になる可能性があることも、容易に想像できるでしょう。ロッドを立てれば、同じリール側のドラッグ設定でもラインに掛かるテンションは急増。ロッドを倒せば、ラインに掛かるテンションを下げることができます。一直線にすると、テンションは最低値になります。

 

ちなみに、勝手に走らせておくだけではぜんぜん疲れない魚たち(たとえばターポンやカジキ類、マグロ類)は、ファイト途中で積極的にドラッグテンションを上げてゆくことが必要ですが、そんな時はノブ1回転でフルパワーまで到達できる設計のリールが嬉しくなります。あらかじめ実験・計測しておくと、目視したドラッグ位置でどれくらいのテンションがかかっているか、予測することができるからです。

 

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ではTight Loops!

 

 

東 知憲

パラシュートフライを考えてみる

2022.03.07

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平均的な釣り人が携行するフライボックス構成要素のなかでパラシュートフライの比率が高い国を見てみると、我が国が世界ランキングトップなのではないかと思います。その根源要因の1つには、田淵義雄さんの書き物の影響があるはず。「フライフィッシング教書」のなかでも、また発表されるエッセイの中でも、日本の川における地味な色のパラシュートの使い勝手を折に触れて語っていらっしゃったと記憶しています。

 

パラシュートフライの起源は、じつは1930年くらいのスコットランドにあります。釣りの面でも国際的な相互影響がとても強くなってきた時期。米国ボンホフのリールに刺激され、英国ハーディーがカスカペディア・サーモンリールを作った時期でもあることを考えれば想像もしやすいでしょう。パラシュートフライを思いついたのは女性プロタイヤー、ヘレン・トッドと言われています。彼女はアメリカの雑誌に掲載された、水平方向に巻くハックルの有効性を説く記事をヒントに、ポストを立ててハックリングする方法を思いついたのです。雇用主であったアレクサンダー・マーティンは、シャンク上に出っ張りをつけたパラシュート専用フックも開発し、1933年に特許も取得しています。これは「ライドライト」(正しい姿勢で水面に乗る)フックと呼ばれましたが、おそらくそれこそが当初、パラシュートフライに意図された機能。ほぼ常に、フックのベンドを下にしてふんわり着水するという特徴です。しかし米国の同時代人ウィリアム・ブラッシュはパラシュートスタイルの低い浮き姿勢にも効果の源泉があると考えていたようです。

 

フライの浮き姿勢に強く注目し、フライフィッシングとフライデザインの流れを変えた功労者は、なんといってもダグ・スイッシャーとカール・リチャーズでした。1970年代初頭の記念碑『セレクティブ・トラウト』で、彼らはパラシュートフライのことを「パラダン」と呼び、ノーハックル・フライやスティルボーン・ダンなどと並べ、効果的なスタイルとして紹介したのです。

 

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振り返って日本の釣り場を想定した場合、パラシュートフライは機能的にとても優れており、田淵さんの確かな目には感服します。波だった水面が多い釣り場では、フライの効果とは直接的に関係がないポストの色を調整すること(リアルなグレイやホワイトから、蛍光オレンジやピンク、ブラックなどに至る)で、視認性は高まります。ハックルファイバーすべてが浮力パーツとして機能するので、高品質なフロータントと組み合わせ、なかなか沈まないフライが簡単に作れます。ファイバーは水面をよく捉え、フライは水面を滑りにくくなります。フックポイントが剥き出しなので、フッキングは良好です。大ぶりに巻けば、羽を落としたスペントスピナーにもなります。さらにパラシュートフライは、ハックルという素材の超魔力を再確認させてくれるという貢献もしたのです。

 

スイッシャー&リチャーズに続いた異才、ゲーリー・ラフォンテーンはさらに考察を進め、1990年に出版された『The Dry Fly』でこう述べています。「世間ではダンイミテーションと思われているドライフライの多くが、じつはそうではない。ニンフとダンの中間ステージ、いわゆる『フリンフ』(フライ/ニンフ)状態を暗示するのだ」と述べ、普通のプロポーションで巻いたパラシュートフライは羽化失敗個体(いわゆるDD=ドラウンドダン)の表現であるとも言い切っています。さらにラフォンテーンは、パラシュートスピナーを多用することでも有名でした。

 

パラシュート構造は、イマージャー(フリンフ)、殻から背中を出したダン、羽化失敗して死んだダン、そして産卵が終わったスペントスピナーと、たいへんに多様な使い道があるわけです。どこを浮かせてどこを沈めるのか、各パーツは何色にするのか、それによって何を表現しようとするのか。定番となる教科書レシピを押さえたうえで(これ大事だと思います)、マッチング・ザ・ハッチ導師たちの知見を組み合わせれば、日本の川で行うフライフィッシングがさらに楽しくなっていくと思います。

 

では、Tight Loops! 

 

東 知憲

 

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CASTING TIP Feb 15

2022.02.17

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バントかスイングか

 

私たちインストラクターたちが頻繁に引用する「フライキャスティング5つの基本」というものがあり、おそらく異論を唱える余地がまったくないほどの大根本となっているのですが、その中に「フライロッドは滑らかに、適切に加速させる」というものがあります。この物言いのなかで、「滑らかに」と「加速させる」は、なかなか両立が難しいものです。加速を心がけるとガツンとティップが動いてしまったり、「滑らかさ」を意識するとこんどはスピードが足りなくなってしまったり。

 

この「滑らかな、適切な」加速を実現するためには、テコとしてのロッドの動きを理解しておくとプラスになります。フライキャスティングとは、ロッドの平行移動と回転運動を組み合わせてティップの軌跡と速度を管理することでもありますが、それらの特徴を見てみましょう。いまは便宜上、フライロッドは全然曲がらないと想定してみましょう。

 

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平行移動されるロッドは、テコとして活用されていません。グリップ上部で10センチ前に進んだら、その先端も10センチ進みます。1対1の比ですから、ゆっくりと精密に動かすことに向いています。野球で言えば、精密さが求められるバントのようなものでしょうか。

 

 

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ところが、回転運動を行うロッドはテコとして作用するようになります。グリップ上部10センチ前に進んだら、先端が100センチ進む、というようなこともあり得るわけです。野球のバッティングでいえば、ぐいんとスイングする動作ですね。つまり、わずかな時間や手元距離の間に、大きくティップを動かすことが可能。きわめて大きな加速ができますが、やりすぎの急加速に陥りがち。

 

 

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実際には、フライロッドはよく曲がるものがほとんどですので、上記ほど劇的な違いには結びつきませんし、いきなり回転を使い始めても、テクニックの微調整で滑らかな急加速ができる人もいます。しかし、キャストのどの段階で平行移動と回転運動を使うか、という意識は、上記の図を踏まえ、考えておく必要があると思います。そして、現代的なプログレッシブ・アクションを持つロッドを投げるキャスターは、だいたい平行運動を使ってゆるやかにティップを動かし始め、それから回転運動につなげてゆくという流れを使っているようです。シーズン前の、考えるヒントになれば……。

 

では、Tight Loops!

 

東 知憲

刈田敏三のライズシアター(如月)

2022.02.03

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長い付き合いの重要種

 

ふと、昔のフライが気になりノートをめくった。1977年の4月8日12時40分。長野県南端の売木川で見つけたライズにクリーム色14番のソフトハックルフライを投げ、アマゴを釣ったとある。・・・そうだった。その頃、ピーコックを使ったコーチマン系のフライを何度も試した。世間や外国で有名なそのフライは、ヤマメが出てもフッキングが悪く不満だった。そもそもコーチマンは、春に河原で見かける水生昆虫とはまるで似ていない。

 

水生昆虫に関する書籍としては、昭和37年に「水生昆虫学」という本が出た。けれどもそこに収録されたコカゲロウ関係は、シロハラとフタバコカゲロウの2種だけ。それなのに、渓流に生息するガガンボとしてはウスバガガンボが紹介されていた。幼虫は渓流の石表面に絹糸で膜のような巣を作っている。実際、川底を見ればすぐ納得。長野の川では、ちょっとした石でも百以上の巣があった。生息は高密度で、渓流にめっちゃいる重要種じゃないか。結局、私にとって最も長い付き合いの水生昆虫はウスバガガンボだ。

 

 

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1977年のウスバボディデザインは、それからも20年以上も活躍した。もっと釣れるかな・・・と工夫したフライパターンを試すのも、また面白いところ。イマージャー、スティルボーン、トラップトなど、ずいぶん長い間ウスバのフライをタイイングしてきた。この虫はダイレクトハッチだから、その時々のライズステージには微妙な変異がある。またレッグが長すぎるゆえに失敗もやたらに多いという、気の毒なキャラでもある。一体どうしてその長さが必要なのか聞いてみたい。

 

あれから40年以上が過ぎ、水面で釣る時には、ハックルを薄く長くのネオパラシュート仕様が定番化した。ボディには、シルクを使ってUVレジンでコーティング。昆虫ならではのテクスチャーや色彩反射を意識している。

 

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スレッドを下巻きして、ヴェインファイバーでポストを立てる。根元を約2.5㎜スレッドで巻き上げ、ファイバーを矢印のようにむしり取ったハックルをセットする。
ハックルストークの根元は、下に少し出してカット

 

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下に出たストークは、直角に曲げてスレッドで巻きとめ、抜け防止とする。ここで、スレッドはハーフヒッチなどして止めてカット。ポストの根元はヘッドセメントを塗って補強しておく

 

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ボディ用のシルク糸をフックに留めて数回巻いた後、糸のヨリが消えるようにボビンを回転しながらボディに巻きつけ、ゴールドワイヤも巻き押さえてセットする。ボディのシルエットが出来たらハーフヒッチしてカット。また新たにスレッドを掛け、ボディにセグメントを巻き作ったゴールドワイヤを止めてからフィニッシュしてカット。この後、マーカーでソラックス辺りを少し染めてから UVレジンでボディをコーティング、光硬化処理をする

 

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次はハックル。ここからはフックを倒してタイイングすると、作業がスムーズになる。ポストに新しくスレッドを掛けておいて、ハックルをポストに巻く

 

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ここからは慎重に・・・…暴れず垂直になるよう2回転巻いてからスレッドで押さえ、残りをカット。スレッドを数回巻き重ねて、ハックルの下面が「水平」になるように調整して出来上がり。ハックルは、ファイバーがストレートに長くて張りがあれば2回転、多くても3回転以内でセットするのがネオパラシュートの極意。

 

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このパターンは「ハックルが見えないほど薄い」を狙っている、ネオパラパターンは、ソフトな着水、そしてしなやかにハックルを意識させないドリフトで、ボディは水面下・・・だからよく釣れる。

 

フック・・・TMC206BL #16
スレッド・・・BENECCHI’S UF ペールイエロー
ボディ・・・シルクミシン糸50番 クリーム色COL42
セグメント・・・ゴールドワイヤ XXFINE
ハックル・・・ホワイティング ヒーバート ドライフライ ハックル
ポスト・・・ヴェインファイバー パーシモン
マーカー・・・水性顔料 NEOPIKO SAND

 

 

水生昆虫研究家・フライクリエイター 刈田敏三

 

 

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