悪道の果てに

2022.07.16

A Trout Hunter[5]

 

 

 by レネ・ハロップ

 

 

7月の早朝。前に巻き上がる土煙が、「ウッドロード」として知られるこの悪路に先行車があることを教えてくれる。歩くくらいの速度でしか進むことのできない私の古いトラックは、深い溝や穴を乗り越えるたびにきしみ、うめく。ヘンリーズフォークの「ハリマンイースト」および「パインヘイブン」と呼ばれるポイントに入るため、この道を走った数知れぬ者たちが作り上げたわだちだ。

 

わずか1マイルほどではあるが、舗装道から逸れたダートになるこの行程は30分ほどかかり、あらかじめそれを計算に入れておかないと貴重な釣りの時間が犠牲になってしまう。道が終わったところに数マイルにわたって広がるのは、腕利きフライフィッシャーたちでも難しさに苦労を強いられる川の、さらに厳しいセクションである。水藻が茂る、ゆっくりした流れのこの区間は、豊かなハッチに比例して多くのマスを育むが、多くのアングラーが魚を手にできる日はむしろまれで、成果を得られずに戻ってゆく人も多い。

 

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ウッドロードを走る苦労と引き換えにライズするマスに出会えるなら、私はそれもよしとする。その期待が裏切られることはほとんどない。しかし、何時間もキャストを繰り返し、良型のマスを1尾でも手にできたら満足という心の持ちようは必要だ。

 

元気に溢れ、しばしば超大型に成長するレインボーは、フライを口にした後に猛烈な抵抗を見せる。川幅が広く、立ち込みが可能な水深は岸近くに限られるこの区間において、ネットに魚を導くための技術は、フライのプレゼンテーションに比肩するほど大事だ。テイルウォークに続き、バッキングを引き出す灼けるような走りは、途切れのない集中、細く強いティペット、繊細なドラッグを持った高性能リールなどの組み合わせでしのぐ。すべてが計画通りに行っているように思えても、藻の塊によってファイトが唐突に終わることもある。

 

戦士の魂を持って勇ましく戦おうとするマスの引きに合わせ、アングラーは必要なときにプレッシャーを解除する、ロッドを送り込むなどの動作をしなければならないのだが、パニックに陥って集中を欠くと、それでお終い。しかしすべてがうまく行き、究極の対戦相手の頭の下にネットを滑り込ませ、脈打つ重さを感じるときの気持ちは言葉に尽くせない。そして、この貴重な生き物をそっとリリースするときの気持ちは、他に類するものがない。ヘンリーズフォークでの「成功」を測る尺度は、手にしたマスの数以外にもある。

 

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開けた川岸がずっと続くので、アングラーは一箇所に自分を縛り付けておく必要がない。歩き、観察し、考えるのはハンターの性質であるが、マスを探すためにもそれは活用できる。マスは、川のどこにでもいるというわけではなく、ヘンリーズフォークでも同じだ。ターゲットを探し出すためには時間と努力をつぎ込まなければならないが、そこには楽しさもある。狙うに値するマスが見つかれば、次なるプロセスの期待感が湧き上がってくるのだ。途中で失敗しなければ、試行錯誤で1時間ほどは楽しめるかも知れない。攻略戦略には、太陽の位置、風、流れ、障害物などを考慮したポジション取りも含まれる。キャスティング距離にまで近づくのは決して急ぐことはできないので、水面を観察してマスのターゲットを絞りながらゆっくり進んだほうが良い。

 

長生きしたマスは経験を積んでいるので、警戒されないためにはキャスティングも最少に留めなければならない。「ファーストキャストが最高のキャスト」というのは誇張でも何でもなく、プレゼンテーションを繰り返せば成功の可能性は減っていく。しかしマスとの対峙は、ハッチが継続してアングラーが大失敗さえしなければ、何時間も継続できる可能性がある。

 

1尾の生き物と集中して向き合い、フライを替えてプレゼンテーションを繰り返すという集中のなかには、魔力が潜んでいる。結果が得られないときもあるが、大型で用心深いマスがフライを受け入れてくれたときの高揚は、他に類するものがない。私の知る限り最高レベルに厳しいこの釣り場で「成功」を実感するためには1尾でじゅうぶんということを、私は先日、ウッドロードの果てで再確認した。

 

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ガタガタ道を走ってトム・ワトキンスと私が川辺に着いたのは、ウエーダーを履いてロッドにラインを通しているうちにスピナーフォールが終わってしまおうという時間。私とトムはしかたなく、二手に別れて魚を探し始めた。結局、この出発点に帰ってくるのは6時間後だ。

 

昼前に始まったペール・モーニングダンのハッチにより、私は何百ヤードか上流側で、積極的に捕食を行うレインボーをターゲットにほぼ4時間、休みなくキャストを繰り返すことになる。ハッチが終わるころ、私のフライパッチにはマスのお気に召さなかった6本が留められ、6x のティペットも30センチほど短くなってしまっていた。唯一手にできた20インチの魚は、私の全力をあざ笑うように魚が大胆な捕食を繰り返す日にあっては、自然からの気前の良い贈り物と思えた。しかしそれなしでも、楽しい苦悩に満ちたその日の釣りは成功だったといえるだろう。帰りのガタガタ道をゆく間、考えることはたくさんあった。次はいつにしよう、と思った。

 

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