進化と変化

2022.04.18

埃まみれの、古いキャンバス製タックルバッグ。中身は40年以上まえに仕舞ったまま。車庫の隅に据えた棚の上にある目立たないそのバッグは、80年代から溜まってきた不要品の断捨離として、捨てられる運命だったかもしれない。

緑青が浮いた真鍮の金具に通る、硬くひび割れた皮のベルトを外し、バッグを開けさせたのは好奇心だったが、中に入っていたのは長く忘れられた宝物だった。完全に使用可能な状態に保たれた、何百本ものフライを巻いたのは他ならぬ私。ウエット、ドライ、ニンフと分けられ、昔風のデザインのフライボックス1ダースほどに収められている。私は「フライを持ちすぎることなどない」と考えるタイプの人間だが、これらの古いフライが使われることなく仕舞ってあることには理由があった。ガレージ片付けという大プロジェクトのことなど忘れてしまった私は、2時間をかけて、自らの過去に深く潜っていった。

 

01

 

フライタイイングが、自分ではない人たちのデザインとコンセプトに基づいた作業だった時代だ。見つかったすべてのフライにノスタルジックな気持ちは湧き起こったが、もっとも興味を引いたのは、特定の種を模そうとしたドライフライ。もっぱらメイフライパターンだ。米国ではセオドア・ゴードンがマッチング・ザ・ハッチというアイディアに基づいて活動を開始した19世紀後半に遡る、クラシックなフライデザインに、私は大きく傾斜していた。ヨーロッパにおけるドライフライの歴史はもっと長いが、そこから刺激を得た米国のクイルゴードンは、ボニーと私がプロになった時代でも、ドライフライのモデルとして大きな影響力を持っていた。

 

02

 

私たちがタイヤーとして頭角を現すためには、東海岸で活躍していたダービー夫妻、デッティ夫妻、ロイ・スティーンロッドといった初期の達人たちのテクニックをマスターしなければならなかった。プロとして最初の10年間のオーダーも、大半は東海岸パターンだった。クイルゴードンに加え、ライトケイヒル、ジンジャークイル、ヘンドリクソンなどを巻いたが、いずれも基本構造は同じである。パーツはそれぞれ異なるが、テイル、ボディ、アップライトウイング、硬いファイバーのハックルといったイメージは一貫している。メイフライのダンを模するこの手法は広く受け入れられ、もともとはカディスイミテーションとして考案されたアダムズですら同じデザインが適用された。アメリカのフライフィッシャーに愛されたこのトラディショナルなフライデザインが唯一の選択肢でなくなってきたのは、70年代になってからのことだ。

 

03

 

ダグ・スイッシャーとカール・リチャーズが記念碑的な著作「セレクティブトラウト」を出版したのは1971年。以来、メイフライ・イミテーションの形は大きく変化することになる。「セレクティブトラウト」は、フライフィッシングの世界において広く知られ、重要であると認識されていた昆虫に焦点を当てた。昆虫に関する科学をアメリカのフライフィッシングに持ち込んだスイッシャー&リチャーズは、フライフィッシャーおよびタイヤーの背景知識に変化をもたらし、伝統的なトラウトフライのデザインから大きく離脱したフライを生み出し、一般化したのだ。自らを確立しようとしていた若いフライタイヤーとスイッシャー&リチャーズが巡り会ったのは、神の導きのようだった。この革命家たちにはじめて遭遇したのは「セレクティブトラウト」が刊行される前の年で、場所はヘンリーズフォークのほとり。以後10年ほど、私たちはよくいっしょに釣りをしたものだ。現代フライタイイングの世界に、彼らほど大きな影響を及ぼした人はいない、と私たちは信じている。

 

04

 

品質に関する基準に変わりはないが、今日のフライタイイングは厳格なデザインや構造に関する決まりに縛られることはなく、自由な創造性を使うことができる。プロとして活動してきたこの50年以上にわたって、私たちは、確固とした知識に基づいてデザインの個性を打ち出してきたタイヤーたちに尊敬の念を持っている。彼らの多くは私たちよりも年上であるが、若き腕利きもたしかにいる。そして、確固とした地盤を築いてくれたかつての達人たちと現代のタイヤーたちは、時を超えてつながっているのだ。

 

05

 

自分がむかし巻いたフライを前に、私は達人たちと、彼らが私に与えた影響のことを考えた。古いキャンバスバッグの中にあったのは、自分の釣りで使うことがあまりなくなっていたフライではあるが、私がどこからやってきた誰であるのかを教えてくれる。私は、時代遅れになってしまった感があるこれらのフライを、またヘンリーズフォークで使ってみようと思い始めている。おそらく、驚くような結果が待っているだろう。

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