パラシュートフライを考えてみる

2022.03.07

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平均的な釣り人が携行するフライボックス構成要素のなかでパラシュートフライの比率が高い国を見てみると、我が国が世界ランキングトップなのではないかと思います。その根源要因の1つには、田淵義雄さんの書き物の影響があるはず。「フライフィッシング教書」のなかでも、また発表されるエッセイの中でも、日本の川における地味な色のパラシュートの使い勝手を折に触れて語っていらっしゃったと記憶しています。

 

パラシュートフライの起源は、じつは1930年くらいのスコットランドにあります。釣りの面でも国際的な相互影響がとても強くなってきた時期。米国ボンホフのリールに刺激され、英国ハーディーがカスカペディア・サーモンリールを作った時期でもあることを考えれば想像もしやすいでしょう。パラシュートフライを思いついたのは女性プロタイヤー、ヘレン・トッドと言われています。彼女はアメリカの雑誌に掲載された、水平方向に巻くハックルの有効性を説く記事をヒントに、ポストを立ててハックリングする方法を思いついたのです。雇用主であったアレクサンダー・マーティンは、シャンク上に出っ張りをつけたパラシュート専用フックも開発し、1933年に特許も取得しています。これは「ライドライト」(正しい姿勢で水面に乗る)フックと呼ばれましたが、おそらくそれこそが当初、パラシュートフライに意図された機能。ほぼ常に、フックのベンドを下にしてふんわり着水するという特徴です。しかし米国の同時代人ウィリアム・ブラッシュはパラシュートスタイルの低い浮き姿勢にも効果の源泉があると考えていたようです。

 

フライの浮き姿勢に強く注目し、フライフィッシングとフライデザインの流れを変えた功労者は、なんといってもダグ・スイッシャーとカール・リチャーズでした。1970年代初頭の記念碑『セレクティブ・トラウト』で、彼らはパラシュートフライのことを「パラダン」と呼び、ノーハックル・フライやスティルボーン・ダンなどと並べ、効果的なスタイルとして紹介したのです。

 

flybox

 

 

振り返って日本の釣り場を想定した場合、パラシュートフライは機能的にとても優れており、田淵さんの確かな目には感服します。波だった水面が多い釣り場では、フライの効果とは直接的に関係がないポストの色を調整すること(リアルなグレイやホワイトから、蛍光オレンジやピンク、ブラックなどに至る)で、視認性は高まります。ハックルファイバーすべてが浮力パーツとして機能するので、高品質なフロータントと組み合わせ、なかなか沈まないフライが簡単に作れます。ファイバーは水面をよく捉え、フライは水面を滑りにくくなります。フックポイントが剥き出しなので、フッキングは良好です。大ぶりに巻けば、羽を落としたスペントスピナーにもなります。さらにパラシュートフライは、ハックルという素材の超魔力を再確認させてくれるという貢献もしたのです。

 

スイッシャー&リチャーズに続いた異才、ゲーリー・ラフォンテーンはさらに考察を進め、1990年に出版された『The Dry Fly』でこう述べています。「世間ではダンイミテーションと思われているドライフライの多くが、じつはそうではない。ニンフとダンの中間ステージ、いわゆる『フリンフ』(フライ/ニンフ)状態を暗示するのだ」と述べ、普通のプロポーションで巻いたパラシュートフライは羽化失敗個体(いわゆるDD=ドラウンドダン)の表現であるとも言い切っています。さらにラフォンテーンは、パラシュートスピナーを多用することでも有名でした。

 

パラシュート構造は、イマージャー(フリンフ)、殻から背中を出したダン、羽化失敗して死んだダン、そして産卵が終わったスペントスピナーと、たいへんに多様な使い道があるわけです。どこを浮かせてどこを沈めるのか、各パーツは何色にするのか、それによって何を表現しようとするのか。定番となる教科書レシピを押さえたうえで(これ大事だと思います)、マッチング・ザ・ハッチ導師たちの知見を組み合わせれば、日本の川で行うフライフィッシングがさらに楽しくなっていくと思います。

 

では、Tight Loops! 

 

東 知憲

 

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