現代トラウトフライの進化

2019.03.12

A Trout Hunter[5]

50年間を振り返って (その1)

 

 by レネ・ハロップ

 

 

21世紀も1/5が過ぎ去ろうとしているいま、デッティ、ダービー、フリックといった名前を知っている人たちはほんの一握りになってしまったのだろう。私がこの仕事を始めた60年代において、アメリカン・フライタイイングの最前線に立っていた人たちだ。ニューヨーク州キャッツキルのあたりに集まっていた彼らは、フライの質に関して高い基準を確立した。

 

コマーシャルタイヤーとして最初の10年ほどは、キャッツキル・パターンを巻くことが仕事の中心だったが、簡単なことではなかった。達人たちのテクニックは書物に記されていない秘密が多く、いまとなっては知る人も少ない。きちんとしたスタンダードを巻くには、時として入手の難しいナチュラル素材を精密に巻き留めることが必要だった。ライトケイヒル、ヘンドリクソン、ジンジャークイルといった東海岸パターンは、もはや過去の遺物になりかっているが、ボニーとわたしはオービス社へ卸すために何千本と巻いたものだった。70年代初頭まで、高品質フライは全米あちこちに散らばっていた、私たちのような個人タイヤーが供給していたのだ。

 

 At The Vise           

 

ハウス・オブ・ハロップのようなファミリービジネスをやっていくためにもっとも難しかったのは、トラディショナルなパターンを巻くためのナチュラル素材の確保だった。とくに、高品質ハックルはほんとうに入手が難しかった。米国内で生産される量は限られていたので、インドや中国から入ってきたケープやサドルを選ぶしかないのだが、品質にはじつにばらつきがあった。10枚買ったうちの1枚使えればよいほうで、18番以下を巻けるハックルを生やしているケープはさらに少なかった。美しいフライを巻くには美しいマテリアルから、という考えは、いまだに私の信念である。

 

 Classic Ginger Quill

Classic Ginger Quill

 

水生昆虫のイミテーションを作り上げるアプローチにおいて、70年代に大変化をもたらしたのがスイッシャー&リチャーズであるというのは定説で、私もまさにそうだと思う。高品質ハックルの入手が難しければ、それを省いてしまおうという考えが最初にあったわけではないだろうが、結果として彼らは、ハックル依存から脱却する道筋をつけたのだ。フライフィッシャーの注目を、ダンステージからイマージャーステージへと移したのが彼らの最大の貢献だろう。そのしばらく後、カリフォルニアのボブ・クイッグリーが「羽化失敗個体」の重要性を言い出し、「クリップル」という呼び方がフライタイヤーの間に定着した。

 

私の話をすれば、バイスを前にした創造プロセスは、ヘンリーズフォークをはじめとする難しい釣り場のマスが見せる、セレクティブな摂餌行動が加速させてくれた。私の観察に基づく仮説からアプローチするフライのデザインは、昆虫が水中から空中へと出て行く間に何度か起こる、マスにとって利用しやすい瞬間を念頭に置く。「トランジショナル(形態移行期)」パターンの誕生である。釣り人によるプレッシャーのせいでフライを拒否するようになった魚に、再びアピールを感じさせるマテリアルとしてCDCが登場したのは大きな出来事であった。80年代後半のことだ。ヨーロッパでは歴史のあるこの新素材は、すばらしい浮力と全体のリアルな印象により、これまでとはまったく異なるフライを作り出してくれた。

 

 Callibaetis CDC Last Chance Cripple

Callibaetis CDC Last Chance Cripple

 

Foam Hopper (imported)

Foam Hopper-Imported

 

 

フライタイイングの世界に巨大な変化が訪れたのは90年代だ。この釣りをやる人たちが爆発的に増え、フライのニーズも高まったので、小さな産業だったフライタイイングも大規模化していった。フライロッドを持ったこともない手と、マスを見たこともない目を持つ器用なタイヤーたちが生み出す何万本ものフライが、米国に輸入されてくる。伝統的なマテリアルにこだわらず、シンセティックを使おうという姿勢は、利便性と必要性の両方から主流となった。フォームを貼って作るようなタイプのものは、フライタイイングというよりはルアーメイキングであるが、私は創造性を否定するつもりはないし、そんなフライが新しい人たちをこの遊びに導いてくれるなら歓迎だ。スイッシャー&リチャーズですら、当時は異端視されていたのだから。(続く)

 

 

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