旅するブーツ

2019.03.04

ストーク・オン・ザ・ワイルドサイド

 

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そこはいわばもっとも厄介なポイントで、風を遮るものがないワイドでオープンな深瀬。風が少しだけ弱まり、数少ないチャンスがやってきた。

 

フォルスキャストは1度のみ、バックキャストから強く加速してストップ、その勢いのままラインはマスのやや上流めがけて伸びていく。だが、強風の中で投げるのに慣れ過ぎたのだ。ラインは魚の上流に激しく突き刺さってしまった。波紋が広がった瞬間、魚はスススーッと上流に泳いで逃げて行った。「あ、やっちまった」……

 

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12月、初夏のニュージーランド(以下NZ )南島である。シーズン初期だから釣り人は少なめ。マスたちもスレていない分だけ、フライに対する反応もいい。ポイントは落ち込みや早瀬ではなく、緩い瀬の中央から下流側。ストーキングを伴うサイトフィッシング、数は少ないが魚はデカイ。この時期のNZ南島の釣りを要約するなら、こんなところだろうか。

 

問題は気象条件。北西風は強く、これが厄介なのだ。サザンアルプスを見渡す風光明媚な高原地帯は、ほとんどの川は北西方向から長く伸びてくる。標高差のある山脈から吹き降ろされる強風は、広い谷間を一気に駆け降りる。気圧の谷が数日ごとに島の周辺を通過し天候もころころ変わる。フライフィッシングには過酷な気象条件で、青空や無風を本当に恋しく思う日が少なくない。

 

02

 

この釣りの要は、歩くことだ。デカくて無垢なヤツをねらうなら、歩けば歩くほど恵みがある。たとえどんなに魚のいそうな落ち込みや早瀬であろうと、無視して素通りした方が効率はいいとされる。

 

デカいのがウヨウヨ泳いでいるような川は、よほど山奥の川でもない限り、ない。車でアクセスできる川なら、ホドホドのサイズで妥協する(といっても60㎝は狙える)か、アクセスからかなり遠いポイントまで歩いて行く必要があるわけだ。

 

私は、リフトアップされたRVやヘリを使ってポイントに横付けする種のフィッシングとは縁がないので、一日の釣りで最長なら20㎞、少ない時でも7~8㎞、平均すると一日10㎞ほど歩く。バックパッキングを信条に、山小屋やテントをベースに山奥の楽園とモンスターを探す釣りを続けてきたのだが、実際のところはただの貧乏釣行者。しかし反骨心も少しはあり「オレはワイルドサイドを歩くぜ」なんて思っていると、ちょっとは気休めになった。そんな旅のおかげで必要以上に分かってしまったことがいくつかある。

 

長距離釣行の要となる道具はブーツということは、身にしみた。初めてニュージーランドを放浪した1996年からかれこれ1000日ほど過ごしてきたので、これは確信である。最初の頃はよくわからず、やわなブーツ、ブーツ一体型のウェーダーで、ひどい目にあった。

 

疲労にもっとも影響するのはソール。グリップを重視して薄くし、柔らかさを増せば、足裏への突き上げが増える。足の裏で地面の凹凸を感じるようなダイレクト感は心地よく感じるのだが、実際は踵、膝、腰に疲労が蓄積する。逆にソールを厚くし過ぎると、ブーツの重量は増えグリップ力も劣る。グリップしないブーツで神経を擦り減らすのも疲労につながるだろう。疲れさせず、安全性を確保する……ウェーディングのためのブーツ設計は、実に微妙なバランスが必要なのだ。

 

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さて、ラバー(ビブラム)ソールと、フエルトソール。その選択に悩まされる人も多いだろう。ラバーはまだ進化の途中なので結論的なことは言えないが、両者はやはり一長一短だ。

 

新品時のフエルト底は、ヌメリのある川底でも滑りにくい選択だが、劣化によるグリップ低下は著しい。柔らかな土砂の上を歩く場合や草地の場合、ビブラムにアドバンテージがある。NZでは、釣り環境の悪化を招く珪藻の移動を抑える理由からラバーソールのみ使用が許されているが、適所にスパイクさえ打ち込んでおけば、滑りやすい川床でもグリップ力が極端に劣ると感じることはない。こと日本に関しては好みで選んでいいと思う。私は両方用意していて、海外ではビブラムオンリー。日本のスリッピーな渓流ではフエルト、本流や湖ではビブラムで対応している。

 

私は2017~18年にかけて3度、延べ3か月半NZに滞在したが、シムス社の「ヘッドウォータープロ・ブーツ」(ビブラムソール)が、放浪生活の足元を支えてくれた。柔らかいビブラムは十分なグリップ力があり、アッパーのヌバック革は足へのフィット・ホールド感が抜群である。発売以来、取材にガイドにと酷使させているが、次第に味が出てきた。シューレースタイプを2足使い込んできたが、昨年BOAを1足追加。

 

魚を探し出し、フライの選択とキャストに集中する。その大事さは海外でも日本でも変わらない。安定した足元があることによって、私たちは安心して釣りに夢中になれる。旅はより快適になる。

 

04

 

 

奥本昌夫

 

ライター、フォトグラファー&ビデオ制作者

自称22年目の鱒釣り紀行作家。著書:北海道の鱒釣り(つり人社)

フライフィッシング・ガイドサービス「FishCamp」主催 www.masutabi.net

 

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